日本国内の人手不足が深刻化するなか、政府は2019年4月に在留資格として「特定技能」という制度を導入しました。介護分野もそのうちの一つに該当します。
しかし、介護分野の特定技能外国人を受け入れるための要件や従事できる仕事について、きちんと理解しきれていない担当者の方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、深刻な高齢化社会において人材不足の解決となる、特定技能「介護」分野について、概要・受け入れ要件・資格試験などを中心に徹底解説していきます。
介護分野における特定技能とは
在留資格「特定技能」が導入されたのは国内の14産業分野であり、介護業界もここに含まれます。なお、介護分野以外には建設業・飲食業・農業なども含まれておりその分野は多岐にわたります。
そしてこれら全ては人材確保が難しい現状を背景に、外国人人材の受け入れが可能になった産業です。よって、特定技能「介護」も介護分野での人手不足解消のために導入されたということですね。
ちなみに「特定技能」には1号と2号の2種類がありますが、「介護」分野においては「特定技能1号」の1種類のみであるというのが1つの特徴と言えるでしょう。
特定技能について詳しく知りたい方は、こちらを御覧ください。
特定技能とはどんな制度?1号・2号の違いや採用の流れを徹底解説
介護分野で特定技能が設立された背景
介護分野の特定技能は、社会問題となっている介護現場での人材不足を解消するために設立されました。世界的にも超高齢社会と言われる日本は、国内の介護従事者だけでは充分と言えず、海外からの人材を補うことでこの問題を解決しようという動きがあります。
では、介護現場の人手不足を2つのデータで具体的に見てみましょう。
まず介護労働安定センターの2017年調査がおこなったアンケートでは、介護現場の事業所職員のうち約66.6%が「大いに不足・不足・やや不足」と回答しました。このことから、介護現場で働く職員の半数以上が人手不足を実感していることがわかります。
また、不足している理由として88.5%が「採用が困難である」と回答しました。
次に厚生労働省老健局「介護人材の確保・介護現場の革新」の調べから、求職者1人当たりにつき何件の求人があるかを示す、有効求人倍率を読み取ります。
こちらによると、介護業界の有効求人倍率は平成31年(2019年)には3.80倍に達しています。つまり、介護福祉施設等の介護業界へ就職を考えている人1人あたりに約4件近くの求人があるということです。
同年の全体職業の平均倍率は1.38倍であることから、いかに介護業界で人手不足が深刻かがうかがえます。
以上のような現状を解消するために、介護分野における「特定技能」制度が設立されました。
介護における特定技能の受け入れ現状・人数
2019年に政府が特定技能を施行した当時は、2024年までに全分野において6万人の特定技能外国人の受け入れを目標として定めました。
しかし出入国在留管理庁によると、2021年3月時点の介護分野における受け入れ人数は1705人(全体の7.6%)にとどまり、当初の目標をはるかに下回る結果となりました。
介護分野における特定技能外国人受け入れのための要件
外国人を受け入れ、雇用する側として重要となってくるのは、その受け入れ要件です。受け入れには以下5つの要件を満たす必要があります。
①事業所の種類
特定技能外国人の受け入れが可能な事業所にはいくつか種類が定められています。受け入れ可能な事業所は以下の通りです。
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 特定介護福祉施設
- グループホーム
- 通所介護事業所(デイサービス) など
※上記は、介護福祉国家試験の受験資格要件において「介護」の実務経験として認められる施設にあたります。
※訪問系の介護サービス(サービス付き、住宅型高齢者向け住宅など)では特定技能外国人の受け入れは不可ですので注意しましょう。
②行える業務内容
特定技能が介護業界での人材不足解消のための制度とはいえ、特定技能外国人が従事できる業務は主に以下の2つの分野に絞られます。
- 身体介護業務:施設利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助や、整容・衣服の着脱、移動の介助など
- 支援業務:レクリエーションの実施や機能訓練の補助、掲示物の管理など
上記の業務に付随する業務に従事することも可能ですが、前述の通り利用者の自宅で行われる訪問系介護サービスに特定技能外国人を従事させることは禁じられています。
③雇用形態と報酬
特定技能外国人を受け入れる立場として特に注意が必要となるのは、その雇用形態と報酬制度です。
– 雇用形態:直接雇用のみ可能であり、派遣雇用は不可
(※なお、フルタイムでの雇用のみ可能であり短期勤務やアルバイトとしての雇用はできません。)
– 報酬:日本人従業員の額と同等以上
また上記以外にも、本人が一時帰国を希望した場合には休暇取得の許可を下ろしたり、報酬や福利厚生施設の利用などの待遇で日本人従業員と比べたときに差別的扱いをしていないことが求められます。
④働ける期間と上限人数
特定技能として外国人が働くためには、ほかの在留資格同様、以下のように一定の在留期間と受け入れ人数が定められています。
- 働ける期間:基本的に在留期間は1年。(その後6ヶ月または4ヶ月単位で更新が可能であり、最長で5年まで在留することができます。)
- 上限人数:各事業所で、日本人の常勤職員の合計人数よりも多くの特定技能外国人を受け入れることは禁止されています。
介護の特定技能を受け入れる際の申請書類
実際に特定技能外国人を受け入れるために在留申請をする場合、必要書類を提出する必要があります。書類が複雑な上、一部の内容が2021年2月19日に改正されましたので、以下最新版の諸書類をご確認ください。
申請書類は「申請人」である外国人が「新たに日本に来る外国人」か「既に日本に住んでいる外国人」かによって変わります。
申請人が「新たに日本に来る外国人」の場合
申請人が新たに日本にくる外国人の場合に必要な申請書類は以下6種類となります。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 写真(縦4cm×横3cm)
- 返信用封筒
- 「特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧・確認表」に含まれる各種書類
- 申請人名簿
- 身分を証する文書(申請取次者証明書,戸籍謄本等)
それぞれの詳細については「法務省出入国管理庁のホームページ」にて確認が可能となっています。
申請人が「すでに日本に在留している外国人」の場合
一方、申請人がすでに日本に在留している外国人の場合に必要な申請書類は以下の通りです。
- 在留資格変更許可申請書
- 写真(縦4cm×横3cm)
- 「申請人」のパスポート及び在留カード
- 「特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧・確認表」に含まれる各種書類
- 申請人名簿
- 身分を証する文書(申請取次者証明書,戸籍謄本等)
こちらについても、詳細は「法務省出入国在留管理庁のホームページ」にて確認可能となっています。
介護分野の特定技能外国人を受け入れる際の注意点
「介護」分野の特定技能外国人を受け入れる際、事業所などの受け入れ側にあたる機関は以下2点を行うことが求められます。
- 外国人への就労・生活支援
- 特定技能協議会への加入
それぞれ詳しく見てみましょう。
①特定技能外国人支援計画の策定と実行
一つ目は特定技能外国人支援計画の策定と実行です。
具体的には以下の計10項目に対しての支援計画を練り、出入国在留管理庁に提出する必要があります。なお、計画内容は十分に書かないと受け入れの許可が下りない可能性もありますのでしっかりと作成しましょう。
支援計画の記入事項は以下の通りです。
(1)事前ガイダンス
こちらは、本サイトで紹介した「介護の特定技能を受け入れる際の申請書類」を実際に申請する前に行います。受け入れ予定の特定技能外国人に対して、労働条件・活動内容・入国手続き・保証金徴収の有無等についての説明を行います。
(2)出入国する際の送迎
特定技能外国人が日本への入国・日本からの出国をする際に必要となる送迎を指します。
(3)住居確保・生活に必要な契約支援
連帯保証人になる・社宅を提供するなどのほかに、銀行口座・携帯電話などのライフラインの契約を案内・補助します。
(4)生活オリエンテーション
日本で生活する上で知る必要があるルールやマナーに加え、公共機関の利用方法や災害時の対応などの説明を行います。
(5)公的手続等への同行
住居地・社会保障・税などに関連した各種手続きをする際に、同行や書類作成の補助を行います。
(6)日本語学習の機会の提供
日本語教室などの入学案内をしたり日本語学習教材の情報を提供することで、日本での語学学習を支援します。
(7)相談・苦情への対応
職場や生活する上で受ける相談や苦情などについて、外国人本人が理解できる言語で対応をしたり、内容に応じては助言や指導なども行います。
(8)日本人との交流促進
自治会などの地域住民との交流の場や地域で開かれるお祭りなどの行事を案内したり、参加する上での補助をするなど、日本人との交流を促進します。
(9)転職支援(人員整理等の場合)
受け入れ機関の都合により外国人の雇用契約を解除する場合、その転職支援を行います。具体的には、転職先を探したり推薦状の作成を行うだけでなく、求職活動を行うための有給休暇を与えたり、その他必要な行政手続きの情報を提供します。
(10)定期的な面談の実施、行政機関への通報
3ヶ月に1回以上の頻度で、支援責任者等が外国人及びその上司等との定期な面談を行います。さらに労働基準法への違反などが見つかれば通報します。
以上が、受け入れ機関が作成しなければならない支援計画10項目です。(※出入国在留管理庁の資料の7ページ目にも画像がありますので参考になさってください。)
なお、受け入れ機関である事業所でこちらの計画の策定が難しい場合は、出入国在留管理庁に登録された登録支援機関に支援計画の策定・実施を委託することもできます。
登録支援機関については、こちらも合わせてご覧ください。
特定技能「登録支援機関」とは?支援内容から申請方法、選び方まとめ
②分野別特定技能協議会への加入
続いて、受け入れ機関が特定技能外国人を受け入れる際に求められる手続きの2つ目を紹介します。
受け入れ機関となる企業や事業所は、特定技能の「介護」分野として「介護分野協議会」に所属する必要があります。
同じ介護分野協議会には、分野所管省庁・関係省庁(法務省・警察庁・外務省・厚生労働省など)・業界団体・学識経験者など、介護に関連のある機関が各方面から構成員として協議会を構成しています。
なおこの協議会では、介護分野において知るべき制度や情報をお互いで共有し合ったり、法令を厳守することで特定技能に従事する外国人を守るなどの役割を果たします。
さらには、地域ごとに介護従事者の人手不足を把握し、適切な場所に人材を投与するなどの対応も行われます。
分野別の協議会に入りその構成員になることで、よりその産業と一体となるといったイメージですね。
介護ができるその他3つの在留資格
ここまで特定技能「介護」の在留資格についてお伝えしましたが、実は他にも外国人を介護現場の職員として受け入れる方法が3つあります。それは「在留資格介護」「特定活動EPA」「技能実習」の3つ在留資格です。
特定技能とそれらの資格を比較すると以下の通りです。

3つの資格について、それぞれ概要を詳しく説明していきましょう。
①在留資格「介護」
2017年9月と比較的最近に制定された在留資格であり、国家資格である介護福祉士の取得者がこちらに該当するため、介護技術に加え高い日本語能力があることが期待されます。
特に日本の介護福祉士養成校に通う外国人留学生がこの在留資格の対象となるため、まずは養成校在学中の外国人をアルバイトとして雇用し、卒業し資格を取得した後に正式に採用することが可能です。
②特定活動EPA
EPA(経済連帯協定)に基づいた在留資格で、日本との経済的な連帯強化を図るためにインドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国のみで制定されています。
2008年から受け入れを開始し、2018年の厚生労働省老人保健健康増進等事業のアンケートによると、すでにEPAとして外国人の介護職員を雇用している介護施設のうち78.9%が「今後も受け入れる予定」と回答するなど、受け入れ後の満足度も高いのが特徴です。
③技能実習「介護」
1993年に「介護」分野において外国人に在留資格を付与できる制度として制定された在留資格です。ただし上記①〜③の在留資格に比べて、こちらはあくまで「技能移転」を目的としているため、実習生は母国で活躍するための技能を日本で習得し、最終的には帰国するのが原則とされています。
介護分野の採用は特定技能がおすすめ
そもそも特定技能自体が人材不足解消のために生まれた制度であるため、ほかの3つの在留資格と比較したときに、受け入れ機関にとってメリットが多いのも特定技能の特徴と言えます。
以下が主なメリットになります。
- 基礎的な介護知識・日本語能力を持ち合わせた状態で来日するため、介護現場への適応が早い。
- 講習が数時間で終わるため、すぐに現場要員として活躍してもらえる。(その他3つの在留資格は、来日後2~6ヶ月の講習期間があります。)
- 業務の制限が少ないため、幅広い業務で活躍してもらえる。
- 技能実習と比べて、雇用開始日からすぐに配属基準に含められる。(技能実習は配属基準に含まれるまで最低でも8ヶ月かかります。)
- 介護施設が新設から3年未満でも雇用できるため、早い時期から雇用を確保しやすい。
- 技能実習生や特定活動EPA資格保持者であれば一部の場合試験免除が可能で、特定技能への在留資格移行がしやすい。つまり、在留期間が迫った外国人を受け入れやすい。
介護分野における特定技能資格の取得要件
「介護」分野における特定技能に申請するには、業務において必要な介護技術と日本語コミュニケーションスキルを有している必要があり、外国人は必須の資格条件を証明することが求められます。
以下、①から④までの方法で資格証明を行い申請することができます。
①介護技能と日本語能力試験に合格する
まず一つ目は介護技能と日本語能力試験に合格するという方法です。試験は主に以下3つの種類があり、合格にはすべての要件を満たす必要があります。
- 日本語能力試験・国際交流基金日本語基礎テスト
- 介護日本評価試験
- 介護技能評価試験
それぞれの概要を解説していきましょう。
(1)日本語能力試験・国際交流基金日本語基礎テストについて
まず、「日本語能力試験」ではN4以上の取得が求められます。この試験は年に1・2回程度とやや少ない頻度で実施されますが、国外だけでも80の国と地域で行われるなど、多くの外国人が受験する日本語能力試験になります。
試験の合格者は「基本的な日本語を理解することができる」と認定され、日常会話や日本での生活に支障がないと判断されます。
次に、「国際交流基金日本語基礎テスト」では、試験での合格が求められます。この試験は年に6回程度と、比較的実施頻度の高い試験で国外でも実施されます。「CBT」というテスト方式によって、試験用紙やマークシートではなくコンピューター上で回答を行うことが特徴です。
合格者は「日本語能力試験」同様、基本的な日本語能力を有していると判断されます。
(2)介護日本評価試験について
こちらは上記の日本語試験とはやや異なり、名前の通り、特に介護現場で業務に従事する上で支障のない日本語能力を図る試験になります。現時点での実施回数は国内よりも国外のほうが多く年に6回程度行われます。
なお国際交流基金日本語基礎テストと同様に、「CBT」方式で試験が行われます。
(3)介護技能評価試験について
この試験は、日本語の能力を問う試験ではなく介護技術に関する専門性を図る試験になります。そのため試験自体は現地語で行われます。
試験の合格者は、介護に関する技術や理解を持っており介護利用者の心身の状況に応じた介護を実践できる水準であると判断されます。そのため介護分野において、ある程度の専門性や技能を持ってすぐにでも働ける人材として見込まれます。
なおこちらも、「CBT」方式で試験が行われます。
②介護分野の技能実習2号を修了
介護分野における「技能実習2号」を修了した外国人は、上記の試験は免除され特定技能の在留資格に移行が可能です。その理由はそもそも「技能実習2号」を修了するには、技能実習生として日本の介護分野において3年以上勤務経験が必要であるため、特定技能取得のための条件をすでに満たしていると判断できるためです。
特定技能へ切り替える際の条件としては、申請時に技能実習修了証の確認を受け、提出をする必要があります。
③EPA介護福祉士候補者として在留期間4年間を満了
EPA介護福祉士候補者とは、介護福祉士養成施設の実習施設と同等の体制が整備されている介護施設で、国家資格である介護福祉士資格の取得を目的に研修を受けている外国人を指します。
特に日本とEPAを結んでいるインドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国から来る外国人のみがこれに該当します。
特定技能へ切り替える際の条件としては4年の間の研修を修了したのち介護福祉士の資格を取得している必要があるため、実際の申請時には介護福祉士国家試験の結果通知書の提出が求められます。
④介護福祉士養成施設を修了
介護福祉士養成施設に該当する教育機関にて、実際に養成課程を全て修了した人がこれに該当します。
この課程を修了した人は、介護従事者として現場で役割を果たすための専門的な知識や経験を一定程度有していると判断されます。
特定技能へ切り替える際の条件として、医療福祉専門学校や大学においてその課程を修了することが求められ、また申請時には修了証明として学校の卒業証明書の提示をする必要があります。
まとめ
以上、外国人雇用のなかでも「介護」分野における特定技能の在留資格に関する紹介でした。
外国人人材の活躍はこれからの日本社会で間違いなく大きな役割を果たすことになります。在留資格「特定技能」、そしてそのなかでも「介護」分野は受け入れ側としてのメリットも多く、雇用にも最適な資格として注目されています。
- 積極的に外国人の雇用をしたい
- 現在、介護現場で人材確保の問題に直面している
- 特定技能や技能実習など、外国人雇用を検討している
そんな方の参考になれば幸いです!
外国人材採用をご検討の方は、ぜひ一度弊社にお問い合わせくださいませ。